鉋、台打
鉋は木の台に刃が打ち込まれた部品点数も少ないシンプルな構造の道具です。
しかし、そのシンプルな中に木を削り、平面に仕上げ、木特有の逆目を止める性能を持っています。
日本の鉋は豊富な天然資源の木材を加工するために使われ続けてきた伝統的な大工道具です。長年使われてきた経験から、より美しく木材を仕上げるために改良され現代に至った知恵の結集で、鉋台を作る事で調整の仕方、仕込みの仕方まで見えてきます。
鉋を自在に操るために台打ちを覚えてみませんか。鉋を使う方なら手持ちの大工道具で作る事は可能です。
私が鉋の台打ちを覚えたのは25歳の頃だったと思いますので、30年前の話になります。台打ちを覚えるにあたり、志岐大工道具店にて刃を一枚買い、虫食いの赤樫をかなりの数頂きました。それと台打ちに使う大工道具類をいくつか揃えました。
そしてご主人が一度だけ墨付けから見せてやるから見てろよと言われすべて手作業で見せてくれました。台打ちを見るのは始めてのこと、ましてや一度っきりのことで、真剣に見たのを覚えています、その合間にも使用する大工道具の使い方やそのコツなどを教えていただきました。
本職の機械による粗彫
下記は鉋の台打氏による粗彫までをvideoに納めました、参考にご覧ください。なかなか見られない台打ちの光景で効率的に作業が進むのが分かります。
練習鉋台
- 私が台打ちを始めた頃の練習用の台です。九州に住んでいますので、鉋の台は南九州産の赤樫です。
- 白樫よりも硬く粘り強く鑿で掘るのが大変で、一晩に一丁づつ台を打って練習していました。
- 時々鉋台の下端まで仕上げて使いましたが、台打ちを覚える事が一番の目的でしたので両方から台を打ち、仕込んで、押さえ棒を開けるまでの練習でした。
- 写真はごく一部です、こんな台がかなりの数ありました。そんな頃の思い出の品です。
- 最初の頃は、すべて手で掘って鉋台打ちを練習していましたが、出来上がりまでのスピードを上げるために、荒掘りは角鑿盤を使いました。
台に入れる刃
- 鉋は碓氷健吾作「健明}鉋刃サイズは基本的な寸八サイズ。刃先角:26度 仕込み勾配:8寸勾配 新品ですので刃先の角度は少し浅い角度です。
- 刃口は包みの無い普通口。包み口は、鉋台打ちの経験の無い方には難しくお勧めしません。
- まずは基本となる普通口の鉋の台打ちをして、鉋の台打ちをする楽しさを知って頂きたいと思います。
刃研ぎ
- 最初に鉋刃に裏金をあてて、鉋の耳を落とす巾を決めます。裏金の巾より少し狭いぐらいに落とします。(裏がなくなる頃、鉋刃先巾と裏金刃先幅がそろうぐらい)
- 鉋の裏押しをし、鉋裏を研ぎ上げます。ベタ裏にならないように注意し先端までしっかり裏が付かなければ意味がありません。削るのは先端です!
- 鉋刃のシノギ側を研ぎます。打ち変えの時はスコヤを左右から当て片研ぎしていないか確かめます。片研ぎはこの段階で取ります。片研ぎになった刃で台打ちをすると、鉋刃を台に入れて仕上がりに近づいてくると、片出しているように錯覚をおこすからです。錯覚して、片出を直そうと、表馴染みを削ると、気づいた時には、甘くなってしまいます。
- 鉋の刃は研ぎ上げたら直ぐ油を引きます。
裏金の調整
- まず、ある程度鉋刃と密着するか裏金を当てて隙間を見ておきます。
密着しない片当たりを裏金の裏押し後に取る場合、耳を叩くと裏金が歪む場合があり、密着しなくなります。密着はここで確かめておきます。台に刃と裏金を入れて、密着を刃の頭側から隙間を覗き込むと確実です。
- 裏金の裏を押す前に、ある程度は合わせておきます。裏は仕上げ砥は不要です。
切刃の部分を砥ぎます。仕上げ砥は不要です。裏金は木を削るのではありません。
一度先端まで尖らせます。
- 二段研ぎの角度は垂直に裏金を立てて、垂直に10上がり、手前に8倒した状態で1000番ぐらいの中砥石で往復20回ほどで良いです。理論的に鉋屑の厚みがあれば良いといいますが、それでは圧力に負けてしまい、刃先がまくれます。まくれない程度が往復20回と考えてください。それ以上ですと今度は、コッパ返しとの間が狭まり屑が詰まる原因になります。
- 仕上げ鉋の場合、鉋刃は中高に研ぎますので、裏金の刃先も極わずかカーブを付け鉋刃の刃先と同じようなカーブにします。裏金を締め込んだとき、両端が先に詰まるのを抑えるためです。鉋刃は仕上げ用の場合、鉋刃の両端を少し多く研ぎ、鉋枕が出ないようにするためです、けちりんと言います。裏金が真っ直ぐだと両端から鉋屑がつまり、引けません。
鉋刃耳落とし
- 画像のように定盤があると角度が保たれ、綺麗な平面に落とせます。
- 鉋の刃の横にあるのはダイヤモンドブリックで、砥石面の修正と、目詰まりを取るのに使用します。グラインダーが目詰まりすれば発熱温度が上がり、焼き戻し温度に達するから目詰まりを取り除く事が必要です、。この作業を行えば手で持てるぐらいの温度上昇に抑えられます。
- 設置場所にスペースが無い場合は床でが理想です。グラインダーの研磨時と、グラインダー砥石修正時の粉塵を嫌っての事です。粉塵が加工中の材料に着くと、鉋の刃こぼれの原因になります。
台の製材と乾燥
- 鉋の赤樫台の産地は南九州産、丸太で買います。
- 木によってはねじれなどが入った物もあり、そんな木を買うと全部がその性質の鉋台になりますので、充分注意が必要です。
- 丸太の表面を見れば、ねじれが入っているか分かります。
- 製材は、画像のように三丁取り、5丁取りと言うように、長いまま製材します。製材には立会って、年輪を見て、板目もしくは斑を見て柾目、追い柾になるように指示を出します。
- 樫は収縮が大きいので、巾で1.5cmぐらいは大きめに挽きます。反ったり、曲がったりするためで、厚みも厚めに挽きます。
- 製材後は、急激に鉋台の乾燥が進み割れるのでシートをかぶせます。
高い場所での乾燥は、屋根の熱気で鉋台に割れが走りやすいので控えます。
- 赤樫は、白樫より割れやすく、歩留まりが悪いのです。
- ゆっくり乾燥させるため、鉋台は床に近い、風の通らないところにおきます。
場所を移す時は、1本だけ、先に移し一月ほど様子を見て割れていないか見てからにします。割れたりしていら、まだ早いと言うことです。
- 鉋台は三年以上の乾燥を終えた後、必要な長さに切り、更に乾燥させます。
- 長さに切る時も、まず1本切って、コグチに割れが入らないか見てみます。全部切るなら、1月ぐらい後に切ったコグチの様子を見てからにします。
- 切った後は、割れを防ぐため、鉋台のコグチにクリヤラッカーなどを塗っておきます。
使う時は、この部分だけ、切り落とせば良いのです。塗ったまま使ってもかまいません。
- その後、あらかた鉋台の形にするため、四方を削り木作りし、さらに乾燥させ台打ちを待ちます。
墨付け-1
- まず木表を鉋台下端にして、刃口を切る位置を決める。
- 順目、逆目は、木表を鉋台下端にして、下記の図のような木目の流れにします。鉋を引く時は、理論的にこの方向が軽くなります。又、上面角が割れてとがった部分ができても、鉋を引く時手に刺さらないと教えられました。
- 口切線から木端に仕込み勾配を引く。八分勾配(刃口起点から水平に10移動し、8垂直に上がる点を結ぶ勾配。 ただ、鉋台への鉋刃先の食い込みを考慮し、若干勾配を立てる。
- 刃を仕込み勾配線に当て、刃厚の勾配線を木端に引く。
- 鉋刃の厚線を目印に、鉋台下端に刃厚線を引く。
- 下端の二本の線が口をあける広さになる。(刃厚線は目安)
- 木端返しと鏡の勾配を引く。(木端返しの線は口切り線から始める、つまり刃口ゼロのつもりで。)
- 裏金の巾、鉋刃の先の巾を毛引きを木端にあて、両側から割り振り、口切り線から、刃厚線の間にかける。
- 赤い線は、裏金の巾を現す線です、角鑿はこの幅に開けます。この外側に、鉋巾の毛引きがかけてあり、まぎらわしく、鑿を入れる位置を失敗しないよう入れるための目印です。
- 鉋台上端に木端の線を移す。左から鏡の上端線、仕込み勾配線、刃厚線です。
- 下端と同様、毛引きで、裏金の幅を鏡の上端線から、仕込み勾配線の間に木端に毛引きを当て引きます。(この時、巾は幾分下より広めにします。裏金を鉋台に締めこむ時、上に巾の余裕がないと、左右の締め込み調整ができません。)
- 下端と同様、仕込み勾配線から、鉋刃厚線まで毛引きを掛けます。この時、鉋刃のかえ先の巾よりやや余裕を持ち広めにします。(片方で、0.5ミリほど)裏金同様片出の調整ができるようにです。
- これで加工のための鉋台ケガキができました。
鉋台の荒彫り-1
- すべて鑿と玄翁で鉋台を彫る事もできますが、今回は効率よく角鑿を使います。以前、台打ちを練習していた時は、鑿と玄翁で練習しました。
- 台下端を上にして、木端返しの線が垂直になるよう、スペーサーを台尻側に敷きます。(画像に少し見えています)
- 角鑿のサイズは6ミリ程度、刃厚線まで余裕を持つ為、少し小さめのサイズです。
- 鉋台のこの部分は裏金の巾に彫ります。樫の木は硬いので、最初は刃を少しずつ刺します。その後は、角鑿の幅を半分ぐらいかけながら、巾方向に彫り広げます。鑿が折れやすいので無理に入れません。
荒堀り-2
- 鉋台鏡の勾配が垂直になる、治具にセットします。
- 鑿のサイズは9ミリぐらい、面積が広いので、折れにくいサイズに変えます。
- 木端返しの勾配で開けた穴と、つながる深さまで彫ります。
- 角鑿の機種により、鑿の構造体が当たり、彫れない場合があります。
- バイスが鉋台の頭部分しかはさめませんので、しっかり締める事と、前後の振れに注意が必要です。ぎりぎりまで掘ると、鉋台の屑溜まり側面に食い込み跡が残ります。
荒彫り-3
- 鉋の刃厚線が垂直になるように鉋台を治具にセットしますが、台の口に近い方が若干彫る量が少なくなるように、垂直よりやや寝るぐらいが良いです。
- 鉋台表馴染みをつける時、刃先をきつめ、きつめに鑿でさすためです。
- 深く掘りすぎると木端返しに傷がつきます。少し手前で止めるくらいが安全です。
- 残りは鑿で叩いて取ります、機械に頼りすぎてはいけません。
手彫り
- 鉋の台打ちは角鑿盤がなくても行えます。私も最初は手打ちから始めました。一晩に一丁打って練習しました。
- 手で掘る場合、まず刃の出てくる鉋台口の中心部分に道案内の穴を掘ります。黄緑の点
- ドリルに3ミリ程度の錐を付けて掘ります。
- 硬く屑はけが悪いので、ドリルを上下しながら屑を出します。
- そうしないと、直径が細いので折れやすく、又、穴の方向が真っ直ぐ開かないことがあります。
- 刃の出てくる穴の部分で、真ん中あたりに一列に多めに穴を開けます。
- ガイドの穴は裏金の入る巾より狭いぐらいです。
- 両端の穴は、外側に逃げると屑溜り側面に傷となって残りますので注意します。
- 鉋台上面まで貫通させます。
道穴
- 緑の線がドリルで開けた道穴の線です。
- 道案内の穴が開いたら、そこを中心に追い入れ鑿1寸ぐらいでVの字に掘って行きます。
- 狭いので、深さは1センチも彫れないかもしれませんが、彫れるところまで、彫れば大丈夫です。
- 次の鉋台上場から彫れば丁度よくなります。
鑿で切り始める
- 刃口線は真っ直ぐ鑿を入れます。
- 刃の厚み線(鉋刃の表の線)は刃のカーブに合わせて、少し角度を付けます。
- このようにして、巾は狭いですが、鑿を立てながら限界まで掘ります。
- 幾分、仕上線より引いて掘ります。
- 狭い部分を広く掘りますので、1寸(30ミリ)ぐらいの軸のしっかりしたサイズの鑿が良いでしょう。
道案内を頼りに掘る
- 今度は鉋台上から、裏金の巾にVの字に下端と同じように最初に開けた3ミリの穴を道案内に、追い入れ鑿で掘って行きます。
- 下からのVの字の穴と、上から掘った穴が貫通するはずです。
- ドリルの穴を頂点に彫っていけば、必ず、彫りすぎず、刃口側からの穴と貫通します。
- 青い点線の角度は、だいたい鏡面の角度に合わせて掘った方が効率よいでしょう。
内側の仕上げ
- 貫通した後は、コッパ返しの勾配、鏡面の勾配に合わせて、鑿で広げて内側の面を仕上ていきます。
- 表馴染み面の線は、赤い点線が表馴染みの仕上線とすると、表馴染みを鑿で差す事を仮定して、少な目に鑿を差して赤線までで残しておきます。
- このように角鑿盤と同じように加工します。